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※あや・みき・ゆいの生声が聴けるブログ小説!!本人達のナレーションを「其ノ壱」より続々とアップ中!!
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其ノ四「くの一と服」(前編)
夜明け前。
日没を過ぎても喧噪が絶えることのない都の一日の中で、この時刻が最も行き交う人が少ないようだった。
肌寒く、静かな空気を切り裂くように、三つの影が人気のない大通りを駆け抜けていく。くの一達だ。
とかく人目の多い都での潜伏生活の中で、日課となっている基礎鍛錬をこなせる時間は、この時をおいて他にない。しかも、学校のような設備を望むことは 出来ないのだから、この短い時間での集中した走り込みは、今の彼女達にとって唯一の、己の心技体を衰えさせないための重要な修行であった。
のだが…。
先頭を走っていたあやが、突然急停止し、何やら不満げな表情で足を踏みならす。
ゆい「どうしたの?あや」
あや「…ぁああ、もうっ、この地面よ地面!」
追いついたゆいに対して、あやは苛立たしげに吐き捨てた。
あや「都の道ってなんでこう石みたいに硬いのよ!これじゃあ三里も走っただけで足がガクガクになっちゃうじゃない!どーしてくれるの!?」
ゆい「あたしに言われてもねぇ。…まぁ、確かに走りづらいけど」
ゆいは地を見下ろし、少し考えてから言う。
ゆい「そういえば、都の人間の履物は、ワラジとは随分違ってたね」
あや「ん?そうなの?よく観てるわね、あんた」
ゆい「こうした硬い地面で動くために特化した道具ってことなのかしら」
あや「さぁね。知ったこっちゃないわ。そんな……んん?」
あやは、何かを思い出した様にキョロキョロと辺りを見回した。
あや「ちょっと…みきは?」
ゆい「あ、そういえば」
ふたりがようやく姿を見せぬ同輩の行方に意識が向いたちょうどその時、遠くからタタタンと軽快な音を立てて走り寄ってくる者があった。みきだ。
みき「あぁー、ふたりともごめーん。待っててくれたのぉ?」
あや「みきっ!あんた足が遅いにも程が…って、何それ?」
息を切らせながら現れたみきの手には、パンパンに膨らんだ袋がぶら下がっていた。
あや「なに…それ…?」
みき「ややぁ、走ってたらノド乾いちゃってねぇ。ちょうど途中で"こんびに"見かけたんで水買おうかなと思って入ったら、ついいろいろ買い込んじゃって」
あや「は?」
みき「あやちゃんみきちゃんも飲む?水。どれがいい?いくつか種類あるんだ。『エビチャン』でしょ、『クリステルガイザー』でしょ、あたしのオススメは『ロッキーのおいしい水』かなぁ。すごいよこれ、16年ぶりの新製品だって」
あや「み、みき…」
みき「あ、でもね、運動した後には『ポッカリシテット』みたいな"すぽおつどりんく"がいいらしいの。はい、人数分あるから。それからえーと…お腹すいてない?おにぎりあるよ、鮭、梅、昆布、たらこ…あ、"つなまよ"はあたしのだから取らないでね。あとね…」
あや「みきっっっ!!!!」
あやの絶叫を受けて、ようやくみきの手が止まった。あやは、きょとんとしたみきの両肩につかみかかり、激しく揺さぶる。
あや「あんたねぇ!あたしたちは忍びよ!誇りあるくの一なのよ!それが、こんな…都の暮らしにおっそろしいほどカブれるなんて…恥を知りなさいよ!」
みき「えー、いいじゃん。すっごい便利だよ"こんびに"」
あや「バカっ!忍びが便利さに溺れてどうする!技が鈍る、心が鈍る!あんた、最近すっごいたるんでるわよ!そんなんで…!」
不意に、あやの言葉はここで途切れた。そして一度唾を飲み込み、力のこもった目でみきを見据え、呟く。
あや「そんなんで…"歌"に辿り着けると思ってるの?」
みき「…………」
あやは明らかに焦っていた。
原因は、先日の"らいぶはうす"での一件だ。リキヤと名乗った男の謎めいた言葉は、彼女の心に少なからぬさざ波を生んでいた。
まったく正体のつかめない技を目指して奮闘していた自分たち。それがすべて、あたかも空回りであったような、そんな印象を覚えさせるような不思議な響 きが、彼の言葉の中にあった。それを認めまいとする自分と、認めざるを得なくなりつつある自分…。ちっとも成果の上がらない隠密活動とも相まって、あやの心の中には相当な苛立ちが募っていたのだ。だが。
みき「……んーとね」
まっすぐ向けられた強い視線を、やんわりとした表情で受け止めながら、みきはゆっくりと返した。
みき「こうした方が、辿り着けるんじゃないかなぁ…って思うのね」
あや「え?」
みき「この前さぁ、あたしあの"らいぶはうす"で、倒れちゃったよねぇ?そんでその後、すっごい大騒ぎしちゃったでしょ」
あや「あ…うん……ちょっと、大変だったわ、あれは」
みき「あの時ねぇ、頭ぐらんぐらんしてたんだけど、なんかね、とても…気分よかったの」
あや「………!?」
みき「やや、その時だけじゃないなぁ。"駅"でぎたぁを持った人たちが"歌"をくりだしたのを見たときも、すごい気持ちよかった。不思議だよねぇ、同じ"歌"って言っても、やってること全然違うように見えたのに…。どっちもさ、見てて胸の辺りがじーんって熱くなってきたんだぁ。生まれて初めてだな、あんな気持ち。手裏剣や吹き矢が命中した時とか、水蜘蛛で水の上歩けた時とかとは、ちょっと違った、嬉しい感じ……」
あや「………」
みき「だからね、あたし、今まで学校で習ったこととは、違うことをやってみようと思ったのね。珍しいこととか、面白そうなこととかあったら、とりあえず試してみて、あの時みたいな"じーん"ってした気持ちを探ってみようかなぁって。そしたら"歌"のこともよくわかるんじゃないかなって…」
あや「な、何言ってるのよ…。"歌"は暗殺術なのよ…。そんな適当な心構えで…」
ゆい「そうかしら」
唐突にゆいが口を挟んだ。
あや「ゆい!?」
ゆい「そもそも"歌は暗殺術"って事自体あたしたちの思い込みだったのかも知れないわ。あや、それはあの時あなたも感じたはずよ」
あや「うっ…………」
一瞬、重い沈黙が三人の間を流れる。
それをなんとか破ろうとしたのか、みきが幾分無理したような笑顔を浮かべた。
みき「とっ…とりあえずさ。水飲まない?あやちゃんどれがいい……」
みきが袋から一本の水の詰まった瓶(ぺっとぼとる)を取り出したまさにその瞬間、瓶の表面に何かが音もなく突き刺さり、その衝突点から水が勢いよく噴き出した。
みき「ふえっ!!!?」
あや・ゆい「!!」
突き刺さりしもの。それは一本の矢だった。
(続く)
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※くのいちINFO!!
萌えゲーム!!
「恋のアクセス解析」試聴
くのいち危機一髪!!
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其ノ四「くの一と服」(前編)
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日没を過ぎても喧噪が絶えることのない都の一日の中で、この時刻が最も行き交う人が少ないようだった。
肌寒く、静かな空気を切り裂くように、三つの影が人気のない大通りを駆け抜けていく。くの一達だ。
とかく人目の多い都での潜伏生活の中で、日課となっている基礎鍛錬をこなせる時間は、この時をおいて他にない。しかも、学校のような設備を望むことは 出来ないのだから、この短い時間での集中した走り込みは、今の彼女達にとって唯一の、己の心技体を衰えさせないための重要な修行であった。
のだが…。
先頭を走っていたあやが、突然急停止し、何やら不満げな表情で足を踏みならす。
ゆい「どうしたの?あや」
あや「…ぁああ、もうっ、この地面よ地面!」
追いついたゆいに対して、あやは苛立たしげに吐き捨てた。
あや「都の道ってなんでこう石みたいに硬いのよ!これじゃあ三里も走っただけで足がガクガクになっちゃうじゃない!どーしてくれるの!?」
ゆい「あたしに言われてもねぇ。…まぁ、確かに走りづらいけど」
ゆいは地を見下ろし、少し考えてから言う。
ゆい「そういえば、都の人間の履物は、ワラジとは随分違ってたね」
あや「ん?そうなの?よく観てるわね、あんた」
ゆい「こうした硬い地面で動くために特化した道具ってことなのかしら」
あや「さぁね。知ったこっちゃないわ。そんな……んん?」
あやは、何かを思い出した様にキョロキョロと辺りを見回した。
あや「ちょっと…みきは?」
ゆい「あ、そういえば」
ふたりがようやく姿を見せぬ同輩の行方に意識が向いたちょうどその時、遠くからタタタンと軽快な音を立てて走り寄ってくる者があった。みきだ。
みき「あぁー、ふたりともごめーん。待っててくれたのぉ?」
あや「みきっ!あんた足が遅いにも程が…って、何それ?」
息を切らせながら現れたみきの手には、パンパンに膨らんだ袋がぶら下がっていた。
あや「なに…それ…?」
みき「ややぁ、走ってたらノド乾いちゃってねぇ。ちょうど途中で"こんびに"見かけたんで水買おうかなと思って入ったら、ついいろいろ買い込んじゃって」
あや「は?」
みき「あやちゃんみきちゃんも飲む?水。どれがいい?いくつか種類あるんだ。『エビチャン』でしょ、『クリステルガイザー』でしょ、あたしのオススメは『ロッキーのおいしい水』かなぁ。すごいよこれ、16年ぶりの新製品だって」
あや「み、みき…」
みき「あ、でもね、運動した後には『ポッカリシテット』みたいな"すぽおつどりんく"がいいらしいの。はい、人数分あるから。それからえーと…お腹すいてない?おにぎりあるよ、鮭、梅、昆布、たらこ…あ、"つなまよ"はあたしのだから取らないでね。あとね…」
あや「みきっっっ!!!!」
あやの絶叫を受けて、ようやくみきの手が止まった。あやは、きょとんとしたみきの両肩につかみかかり、激しく揺さぶる。
あや「あんたねぇ!あたしたちは忍びよ!誇りあるくの一なのよ!それが、こんな…都の暮らしにおっそろしいほどカブれるなんて…恥を知りなさいよ!」
みき「えー、いいじゃん。すっごい便利だよ"こんびに"」
あや「バカっ!忍びが便利さに溺れてどうする!技が鈍る、心が鈍る!あんた、最近すっごいたるんでるわよ!そんなんで…!」
不意に、あやの言葉はここで途切れた。そして一度唾を飲み込み、力のこもった目でみきを見据え、呟く。
あや「そんなんで…"歌"に辿り着けると思ってるの?」
みき「…………」
あやは明らかに焦っていた。
原因は、先日の"らいぶはうす"での一件だ。リキヤと名乗った男の謎めいた言葉は、彼女の心に少なからぬさざ波を生んでいた。
まったく正体のつかめない技を目指して奮闘していた自分たち。それがすべて、あたかも空回りであったような、そんな印象を覚えさせるような不思議な響 きが、彼の言葉の中にあった。それを認めまいとする自分と、認めざるを得なくなりつつある自分…。ちっとも成果の上がらない隠密活動とも相まって、あやの心の中には相当な苛立ちが募っていたのだ。だが。
みき「……んーとね」
まっすぐ向けられた強い視線を、やんわりとした表情で受け止めながら、みきはゆっくりと返した。
みき「こうした方が、辿り着けるんじゃないかなぁ…って思うのね」
あや「え?」
みき「この前さぁ、あたしあの"らいぶはうす"で、倒れちゃったよねぇ?そんでその後、すっごい大騒ぎしちゃったでしょ」
あや「あ…うん……ちょっと、大変だったわ、あれは」
みき「あの時ねぇ、頭ぐらんぐらんしてたんだけど、なんかね、とても…気分よかったの」
あや「………!?」
みき「やや、その時だけじゃないなぁ。"駅"でぎたぁを持った人たちが"歌"をくりだしたのを見たときも、すごい気持ちよかった。不思議だよねぇ、同じ"歌"って言っても、やってること全然違うように見えたのに…。どっちもさ、見てて胸の辺りがじーんって熱くなってきたんだぁ。生まれて初めてだな、あんな気持ち。手裏剣や吹き矢が命中した時とか、水蜘蛛で水の上歩けた時とかとは、ちょっと違った、嬉しい感じ……」
あや「………」
みき「だからね、あたし、今まで学校で習ったこととは、違うことをやってみようと思ったのね。珍しいこととか、面白そうなこととかあったら、とりあえず試してみて、あの時みたいな"じーん"ってした気持ちを探ってみようかなぁって。そしたら"歌"のこともよくわかるんじゃないかなって…」
あや「な、何言ってるのよ…。"歌"は暗殺術なのよ…。そんな適当な心構えで…」
ゆい「そうかしら」
唐突にゆいが口を挟んだ。
あや「ゆい!?」
ゆい「そもそも"歌は暗殺術"って事自体あたしたちの思い込みだったのかも知れないわ。あや、それはあの時あなたも感じたはずよ」
あや「うっ…………」
一瞬、重い沈黙が三人の間を流れる。
それをなんとか破ろうとしたのか、みきが幾分無理したような笑顔を浮かべた。
みき「とっ…とりあえずさ。水飲まない?あやちゃんどれがいい……」
みきが袋から一本の水の詰まった瓶(ぺっとぼとる)を取り出したまさにその瞬間、瓶の表面に何かが音もなく突き刺さり、その衝突点から水が勢いよく噴き出した。
みき「ふえっ!!!?」
あや・ゆい「!!」
突き刺さりしもの。それは一本の矢だった。
(続く)
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卍 カテゴリー
卍 「シノビ塾」とは…
戦国の世から数百年続く”くの一”養成女学校。入学志望者激減のため、学校の存在をアピールして入学志願者を急増させなければならないという状況の中、生徒会役員三役の、「あや」「みき」「ゆい」に校長先生からの密命が!!くの一候補生達に下された、その密命とは一体…??
卍 「あや」プロフィール
「シノビ塾」"生徒会長"。今回の任務での首領格で、力強いリーダーシップを発揮してチームを引っ張る。ポジティブな性格。
卍 「みき」プロフィール
「シノビ塾」"生徒会副会長"。くの一らしからぬ天然キャラ。しばしば予想外の大ボケをかまして、ミッションを迷走させることも。控えめでナイーブな性格。
卍 「ゆい」プロフィール
「シノビ塾」"生徒会書記"。常にクールなしっかり者。幼少時は塾の東北分校(現在廃校)で修行していたため、まれに興奮すると東北訛りが出てくる。
卍 「梟」プロフィール
梟(ふくろう):この物語の語り部。「シノビ塾」校長より命を受け、3人の行動を影から見守り、学校へ報告しているお目付役。世情に通じたベテランの忍者で、ゆえに3人の世間知らずな行動に日々肝を冷やしている。
卍 くの一と遊ぼう!!
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