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いやはや、まったく。大変な密命もあったものである。忍びの道に入って以来もう長いことになるが、これほどまでの難題はついぞお目にかかったことは無い。

しかも一番問題なのは、この使命を請け負ったのが、まだ修行中の身である半人前のくの一どもだということだ。確かに、様々な条件を考慮するならば、他に適任者は見つからないのだが…正直不安は尽きない。

どうなることやら…?

さて、とにかくまずは、都へ到着したくの一たちの動向を記しておこう。

知っての通りこの娘達は、幼少の折より我が校に預けられ、山深い里で忍びの術のみを叩き込まれている、いわば生粋の忍び…の候補生だ。つまりは、物心ついたときから山を下りたことが無い。当然、都へ出るのも生涯初のことである。

都は物々しい騒音を放ち、無数の人で溢れ返っていた。

"びるぢんぐ"と呼ばれる石の館の影に潜みながら、周囲の様子をうかがう3人は、あまりの騒々しさ、異様さに、不覚ながら驚きを禁じ得ないようだった。

あや「…はっ!…ふ、ふたりとも!ボケッとしてる場合じゃあないでしょっ!に…任務が待ってるんだから!」
ゆい「声…上擦ってるよ、あや」
あや「そっ…そんなことないわよっ!」
ゆい「…ひょっとして、震えてない?」
あや「違うっ!これは…武者震いよ、武者震い!忍者ですけど!」
ゆい「……うーん、微妙」
あや「う、うるさいってば!とにかく!」

崩された調子を立て直しつつ、凛々しく顔を引き締めて、あやが場を仕切り直す。

あや「私達の使命は、与えられた指令を速やかに遂行すること!学校のため…校長先生のため…そして"くの一"としての私達の誇りのためよ。ゆい!指令の再確認を!」

言われて、ゆいが懐から、校長の命令を書き取った帳面を取り出す。

ゆい「指令…ひとつ。"歌"と呼ばれる秘伝忍術を体得すること。ひとつ。"歌"をもって世にいでて、『シノビ塾』の教えを広め、入学志願者を募ること……。以上」

あや「…まずは何よりも、その"歌"という忍法、ってわけね…」


眉をひそめながら、あやが続ける。

あや「一体、どんな忍術なのかしら?"歌"って…」

な、何!?

ゆい「…学校の書庫もくまなく調べてみたけれど、そんな記述のある秘伝書はなかったわ」

おい、ちょっと待て!

まさかこの娘達は、"歌"がどのようなものなのか、全く知らぬのか?

…いや、知らないこと自体は不思議ではない。何度もいうが忍術だけを叩き込まれてきた娘達だ。それ以外の知識は不要のまま今日まで育ってきたというのはわかる。

問題は、校長だ。なんで今回の任務の要とも言うべき重要事項について、何も情報を与えないまま送りだしたのだ?

あや「みき、さっきから黙ってるけど、どう思う?」
みき「え…え?何?」
あや「だから…どう思うのか、って!」
みき「え…えーとね……。人がいっぱいいてびっくりだなぁって思ったー…」
あや「まだほーけてたのか、あんたってば!」

あきれ顔をあらためつつ、あやが言う。

あや「ったく……いい?ふたりとも。まずあたしたちは、この"歌"という術の正体に迫らなきゃならないわ。校長先生は、術を体得する指令を与えておきながら、その中身については教えてくれなかった。それはつまり、私達が自力でそれを調べることができるかどうかも、試されているのよ」
ゆい「校長先生の期待に応えるためにも、何としてでもその正体に辿り着かなきゃならないね」
みき「うん…がんばらなきゃ」

おお…。どうやら拙者はこの娘達をいささか見くびっていたようだ。

この気合いと強き意志に満ち満ちた表情はどうだ。できるかもしれない。彼女達なら、"歌"を体得し、民の心を捕らえ、「シノビ塾」に再び栄光の日を取り戻すことが…。

3人は静かに肩を寄せあい、がっしりと円陣を組んだ。

あやが、声高に叫ぶ。

あや「絶対体得するわよ!究極忍術"歌"!!……最強の…暗殺術!」
3人「おうっ!!!!!」

……おや?

いま、何て?

拙者の疑問をよそに、晴れ晴れとした顔でゆいが言う。

ゆい「やっぱり、推理の行き着くところは同じようね」
あや「当然!簡単すぎるわ。校長先生もあたしたちを甘く見たものね」

あやも得意げだ。

あや「"万人をトリコにする"…。これだけで充分推測できたわ。間違いなくこれは、人の心を操る察人術…いや、幻術の類い」
ゆい「しかも"究極"を謳うからには並大抵の力じゃない。生殺与奪をも意のままにできる。おいそれと伝授することすら憚られる、秘中の秘の殺人術」
みき「すごいよねー。なんかドキドキするー。やるぞぉっ!」

嗚呼……。考えようによっては、拙者が思った以上に、こやつらは骨の随まで"忍び"なのかも知れん。発想が物騒に過ぎる……。

が、こんなに真相から程遠いところから始まってしまって、果たしてこの任務は成功するのか?あまりにも…あまりにも道のりが険しすぎるのでは…。

あや「よしっ!早速今夜から術の手がかりを探すわよっ」
みき「はーい!」
ゆい「うん、なんか血が騒いできた」

当初に覚えた一抹の不安が、数倍にも膨れ上がるのを感じた。




其の弐(前編)へ続く
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卍 「シノビ塾」とは…
戦国の世から数百年続く”くの一”養成女学校。入学志望者激減のため、学校の存在をアピールして入学志願者を急増させなければならないという状況の中、生徒会役員三役の、「あや」「みき」「ゆい」に校長先生からの密命が!!くの一候補生達に下された、その密命とは一体…??
卍 「あや」プロフィール
「シノビ塾」"生徒会長"。今回の任務での首領格で、力強いリーダーシップを発揮してチームを引っ張る。ポジティブな性格。
卍 「みき」プロフィール
「シノビ塾」"生徒会副会長"。くの一らしからぬ天然キャラ。しばしば予想外の大ボケをかまして、ミッションを迷走させることも。控えめでナイーブな性格。
卍 「ゆい」プロフィール
「シノビ塾」"生徒会書記"。常にクールなしっかり者。幼少時は塾の東北分校(現在廃校)で修行していたため、まれに興奮すると東北訛りが出てくる。
卍 「梟」プロフィール
梟(ふくろう):この物語の語り部。「シノビ塾」校長より命を受け、3人の行動を影から見守り、学校へ報告しているお目付役。世情に通じたベテランの忍者で、ゆえに3人の世間知らずな行動に日々肝を冷やしている。
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